パウル・クレー展

八重洲・大丸ミュージアムパウル・クレー展へ。あまり著名な作品は出品されていなかったと思われるが、やはり線に卓越した画家だけあって、初めて目にする肉筆からは非常な緊張感が伝わってくる。ベンヤミンが自分の雑誌の名前に引用した「天使シリーズ」の数葉を目にすることができたのは幸いだった。自分が目にしている絵は、確かに彼の存在していた時空間から続いて来たものなのだと云う事なのだから。
それにしても、近代絵画が制作者固有の世界認識の表明であるとするならば、クレーのように世界を眺めるのはきっと相当な苦衷を伴ったのではないかと思われてならない。画面に漂う澄明さと童心の向こうに、無類の厳しさが見え隠れする。この始源的な純真素朴性は、やはり相応の犠牲と妥協なき精神の上に獲得されたものなのだ。またそれ故にこそ彼の絵は、今も安易な「癒し」への回収を拒み得ているのだと思う。